第1章 長年悩み続けた経営幹部。企業変革に迫られた背景とは・・・・・

70年以上の歴史をもつ農薬メーカーである協友アグリ様では企業変革に悩まれてきた経緯がありました。私は2006年頃から当時の副社長(のちに会長)や経営管理部長と会って何度も議論を重ねてきました。当時、協友アグリ様では古い仕事のやりかたを改めるべく、導入から20年近くたっていた基幹システムを更新し、変革の引き金にしようとしたわけです。このため、私は数年間にわたり協友アグリ様とどのようにしたら限られたリソースの中で効率的にシステム更新を成功させることができるか議論を続けさせてもらいました。ある時は本社会議室で、ある時は飲み屋においてでした。



第1章-1 ヒヤリングから見えてきた問題点とは・・・・・

協友アグリ様は全農様を主たる顧客とする農薬メーカー(系統メーカー *1)ですが、業界特有の業務プロセスがあり、長らく固定化した業務のやりかたに安住してきた弊害で業績不振が続いていました。


(*1)全農関係の製造業(農薬・肥料・農業機械等)には 全農殿等を対象とする製造業のビジネスを系統といい、直接消費者に販売する製造業のビジネスを商系という

弊社は過去に農薬製造会社の経験もあるため、経営幹部からの相談にのる中で、直接営業部門や生産部門からヒヤリングさせていただき、当時の取引プロセスを数日程度でフロー形式にまとめてみたところ以下のような問題点があることがわかりました。


全農EDIへの過度の依存

商品倉庫(SP倉庫)からの出荷にあたっては、受注入力がおこなわれず、後でEDIを通じて全農様から連絡を受け、はじめて出荷実績として計上される等、請求・売上等の行為も同様な事が起きており、金と物と取引が発生するタイミングに大きな時間差が発生していました。まるで、外部のシステムが自社システムであるかのような状況を生み出していたのです。


商品在庫が日々把握されていない

商品倉庫(SP倉庫)は一般製造業と異なり、全国各地に分散されているお客様指定の倉庫に商品をおくことが多く、かつてはお客様が商品を倉庫から持ち出し後日報告を受けるということもあったようです。このため、出庫の実態がつかめず、いきおい在庫管理が難しくなる状況がありました。さらに売上計上の時間差と相まって、現実に存在する在庫とコンピュータ上の在庫に大きな差異が生じていました。そのため社員もマイナス在庫があっても気にせず、結果的に過剰生産、欠品、原料の発注漏れを生む原因となっていました。


経営判断を怠る・誤らせる実績把握

以上のように在庫の実態がつかめないうえ、更にインセンティブなどが絡み年度決算を行うまで実際の損益がわからず、日々の唯一の経営指標は売上高だけでした。経営実態をなかなか把握出来ず、経営判断に基づくPDCAサイクルなど回す環境にはほど遠い状況でした。従って経営者は勘と社員からの口頭報告、客先情報などから経営状況の判断を行いながら販売戦略や経営戦略をたてていかざるを得なかったのです。



在庫が信用できない、年度決算を終えないと経営実態が見えない状況での経営ハンドルの操作は、まさに闇の中でライトがついていない車を運転するのと同じ感覚だったと思います。


第1章-2 過去に決別し覚悟の大赤字・・・・・

このような状況の中で不良資産の処分の先送りで十数年にわたりなんとか黒字決算をしてきましたが、7年前に協友アグリとなったときに一気に不良在庫の処分に踏み切ることで2期連続の大赤字決算となりました。同時に会長・社長が先頭に立ち企業体質の変革と効率的な企業へと経営ハンドルを切り替えられました。社長のメッセージ【会社運営に当たっては、「昨日の延長に今日はあるが、今日の延長に明日はない」を合言葉に、常に変革を続けて参りたいと存じます・・・・・】-協友アグリ様のホームページ(http://www.kyoyu-agri.co.jp/company_info/index.html)より-を旗印に改革を進めてこられました。

社員の皆様も、企業の赤字状況の中で、過去の習慣や仕事のやり方では、会社が潰れるのでないかという危機感の中で企業変革に取り組まれたわけです。

協友アグリ様は平成16年に旧八洲化学工業と旧住化武田農薬の系統事業を統合して発足した会社だけに旧八洲化学工業の生え抜き社員、全農出身社員、住友化学出身社員、武田農薬出身社員で構成されていました。それぞれの持っているパワーを持ち寄りどういう会社にするかという議論が幹部間、幹部と社員、社員同士で行われ、改革が進められてきました。この改革は幅広い範囲での改革でした。


第1章-3 業務改革・システム再構築についての協友アグリ(株)様の第一の目標は

こうした議論の中で『一般的な製造業で行われている業務プロセスを導入しよう』ということになりました。古い体質を脱却し、リアルタイムに在庫や損益を把握し経営状況の見通しをたてられる方法を早急に構築しようということになったわけです。具体的には会計から原価計算・購買業務・生産業務・販売業務など基幹業務を一気通貫で捉えられる仕組みを作り上げるということでした。




『一般的な製造業で行われている業務プロセスを導入しよう』



2008年11月に業務改革とシステム再構築を目的としたプロジェクトスタート

協友アグリ様の役員会において、経営管理部長より計画書が提出され上記の内容が確認されました。私もその場に呼ばれて判断を求められ、プロジェクトリーダーは経営管理部長がなられる事に決まりました。


その"具体的な戦略"は・・・・・

本来であれば、導入にあたっては専任者をおいて時間をかけてあるべき業務プロセスを検討するのが一番ですが、社内にシステム部門をもたない協友アグリ様としては、限られた納期と予算でカスタマイズをできるだけ減らすために『適切なERPパッケージを選択し、そのパッケージ機能に業務を合わせて行こう』という結論に至ったわけです。

その時の、社長より私への注文は次のようなものでした。




『農薬製造業の経験があるコンサルタントであるから
当社に適したパッケージを選択して欲しい。
できるだけそれをそのまま使えるものを選んでほしい。』



私は、当時ERPパッケージを活用して世界標準に自分たちの業務を合わせようという掛け声でおこなったERP導入が、結果としてAsIsにこだわりすぎて逆にカスタマイズを多発させ、実際には工程も費用も大幅に計画をオーバーするケースが頻発していただけに、正直『パッケージをそのまま使用する』ことが本当にできるのかなといささか不安でもありました。しかしマネジメントの強い思いもあり、適切なパッケージを選択する事をお約束させていただきました。

長年のあいだに属人化し、目的を忘れて繰り返される業務プロセスを変えるためには、ある程度時間をかけてToBe型の議論する必要がありますが、導入実績が多く広く使われているERPであれば、その機能に仕事のしかたを無理やり合わせて変革させるやり方でも必要な業務はある程度カバーできる。むしろそれによって、従業員の意識改革が可能になるほうがベターであろうと考えたわけです。
本来、企業それぞれの個性を生かしたToBeモデルを描き、それを実現する(パッケージに制約されない)のが本来であるとの考えのもとに、コンサルをさせてもらっているのですが、協友アグリ様の場合、業界固有の商習慣と属人性のためにToBeを議論すると、結局AsIs型になってしまう危険もあることを考慮し、ERP導入は現時点で最適であると判断したしだいです。